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青い鳥よどこへ行く

Twitterが名実ともに消失して𝕏となり、SNSにとって一つの転換期であることは間違いないだろう。備忘録としてまとめておきたい。

思い出話

前兆

まず、2022年11月ごろまで時計の針を戻す。時事に疎い私でも、イーロンマスクのTwitter買収によって何かが変わる予感はしていた。当時の私の直感は、これだった。

もともとイーロンマスクへの印象は、「出してくるプロダクトの当たり外れは激しいが、当たると凄まじい、人間性は気に食わない」という感じで、両手をあげて賛同したわけではないのでこういう記述になった。今考えると、あながち間違いでもないように思う。

私のSNSにおける最大の目標は、まともな議論・言論プラットフォームを作ること。私はその時、これを構築する場としてしTwitterが最も適切だと考えていた。なぜか?それは人が多いから。ユーザー数は全てに優先される要素である。人がいなければコミュニケーションは発生しない。当時の所感を示そう。これは、唯一イーロンに期待していた点である。

Twitter側の勝手な論理で凍結されたりシャドウバンされたら議論プラットフォームとしては堪らない。イーロンはリバタリアンだと思っていたので、こういう期待をしていた。

少し時を進めて、2023年2月。私はこの月にあったことを忘れられない。あの日、Damus、そしてNostrと出会った。NostrはAT ProtocolのようにSNSの共通プロトコル化を目指していたが、そもそもその概念からして新鮮だった。そしてあまりにも単純明快なプロトコルは、Mastodonが登場した時には感じなかった鮮烈な印象を私に与えた。

Nostr / Damusで完全に「ノス廃」になっている話 - note.com

何が楽しかったのだろう?今思い返しても正確にはわからないが、とにかく刺激が多かった事は覚えている。毎日毎日新しいものを見た。新しいプロダクトを見つけた。新しい体験をした。印象が強烈すぎて、これから長い間忘れることはないだろう。

逆に言えば、Nostrはそこに楽しさを見出せないのならまだ行く価値がない場所だ。アクティブユーザー数だって、現時点で全世界合わせても1万人もいないと推計されている。明らかに多くの人数へと自分の投稿がリーチする場所ではないし、集まる人々は濃いが、Nostrに興味があると言う点で共通している。Twitterでそんなことはあるだろうか?Twitterのアーキティクチャに興味があるからTwitterにいるなんて、そんな酔狂な人がいるわけがない。もう一度言おう。Twitterは人がいるというだけで価値があるのだ。Segmentさんによる記事の言葉を借りるならば「『Nostrはおすすめか?』と聞くような人にはまだおすすめではないです」。これは2月時点での言葉だが、半年近く経った今でもやはり変わらない、所詮未完成品だ。

それでも、あえて「Nostrを推薦しろ」と言われたら何と答えるか。Nostrが提示する強みは、検閲耐性、障害耐性、数多くあるが、私の体験を元にするならば「視野が広がる」という点を推そう。これはNostrに限らないが、我々の選択肢はTwitterだけではないはずだ。それはInstagramでもいいし、Mastodonでもいいし、Threadsでもいい。ただ、Nostrは特に異質だからこそ、私の視野は大いに広がった。

確かにTwitterは人が多く、今辞めてしまうとフォロワーを置き去りにしてしまう。でも、それが全てだろうか。ほとんどの人にとってはそうかもしれないが、あなたにとっては違うかもしれない。別にTwitterと並行して更新したっていい。(ただし、仕事で必要な人たちは例外なのがつらい…)。そして興味を持ったのがNostrやBlueskyだったならば、私は嬉しい。

加速

3月。Nostrに残った日本人は、結局のところたった100人程度だった。しかし、私たちはそんなに失望せず楽観的だった。これこそがインターネットの根源的な楽しさだと、今になって思う。コミュニティは、濃ければ大きくなくても面白いものなのだ。

Nostrに興味を持つ私たちはオンラインで勉強会を実施し始め、ちらほらと日本人がクライアントやツールを作り始めた。技術素人の私もそれに触発され、Nostr上でbotを作った。私はこのフレーズを好んで使うが、Nostrは「永遠のハッカソン会場」だと今でも思う。

awesome-nostr-japan - github.com (日本人によって作られたツール・bot群)

毎日どこかで誰かが開拓をして、新しいプロダクトが生まれる。あるものは道を舗装し、あるものはレールを組み立て、あるものは鉄道を建設する。そうして、どんどん快適になっていく。新しいユーザーは全然来ないのに、土地だけが整備されていくのは滑稽かもしれないが、私たちは楽しさだけで突き進んでいた。

初めてのオフ会もこの頃開かれたが、やはり最も印象的なマイルストーンは「のす本」だろう。Nostrの文化・技術を包括的に紹介する合同誌で、技術書典14で頒布された。実際に頒布されたのはもう少し先の出来事だが、3月に企画が持ち上がったあと、驚異的な速度で執筆が進み、完成に至った。ここにはNostr半年分の「全て」があると言っても過言ではないかもしれない。

「のす本」の表紙

Nostr Idol Project

青空

Nostrでコミュニティの結びつきが強まる一方、Nostrにとってある意味片割れのようなプロジェクトについての話題は絶えなかった。Blueskyである。Nostrと同じようにAT Protocolと呼ばれるプロトコルを完成させ、Blueskyはその参照実装となることが期待されているが、私の第一印象は「よくわからない」というのが本音だった。Nostrと比べ、構造があまりにも複雑すぎた。しかし、Blueskyはプライベートベータ中であり、入り込むには招待コードが必要である(今でも)。よくわからないが、とにかく希少性のあるものだった。

3月のある日、突然Blueskyの招待コードが降ってきた。それからはもう瞬く間にNostrの中で招待コードが出回り、あっという間にコミュニティのほとんど全員がBlueskyへと辿り着いた。参考:Bluesky/AT Protocol 勉強会 #0

その後1か月ほどして、Bluesky meetupの頃を転機としてあっという間にBlueskyのユーザー数は増え、Nostrを根とする者以外の人々も4月始めに大量流入し、プライベートベータでありながらBluesky日本コミュニティともいうべき集団が生まれた。

停滞

私は5月の終わり頃からしばらく、Blueskyの空気がなんだか非常にしんどかった。いわば、根拠のない期待感だけが蔓延していたように思う。Twitterをこき下ろし、いかにBlueskyが優しい場所なのかを説くポストが私の周りで溢れていた。もしかしたら私の観測範囲内のみでの話かもしれないが、それでもあえて言っておきたい。その論調は私の意見との差異が大きすぎる。

今、「あなたが本当に欲しいSNSとは何か」についての突き詰め方が足りないように思う。Blueskyは見かけ上、非常によくできたTwitterのコピーである。おすすめ欄やサードパーティクライアントの有無などの違いはあるが、結局場の雰囲気を決定づけるのはそこに集まる人だ。

招待コードにより紐づけられた信用チェーンは、人間の質をTwitterよりは担保する。しかし、それはBlueskyにとって本質的だろうか?分散型SNSが目指すのは、そのプロトコルがあらゆる場所で使われ、空気のように機能し、サービスによる人間関係の断絶をなくすことだ。招待コードは重要な機能の一つだが、本質ではないはずだ。それが良質であっても悪質であっても入手する情報はアルゴリズム次第、それをコントロールする力をこの手に取り戻す、それが分散型プロトコルの目指す未来のはずだ。Blueskyがあの時優れていた要素は属人性が高く、オープンすればすぐ壊れるものだ。そんな刹那的なものに縋っていていいのだろうか?私はそんなふうに冷ややかな目で見ていた。

Blueskyにとって重要な要素とはなんだろう。私はカスタムフィードをいの一番に挙げたいと思う。これはおすすめ欄をユーザーが設計し運用できる機能だ。SNSは、いまやメディアとしての力を隠せない。投稿せず、見るだけのユーザーは非常に多い。彼らをSNSに惹きつけるためには、刺激的なコンテンツが必要であり、それがおすすめ欄だった。

これまでTwitterが運用していたおすすめ欄は、私たちがコントロールできない場所に置かれていて、眺めることしかできなかった。しかしBlueskyのそれは、手を伸ばせば届く場所にある。

はっきり言って、おすすめ欄自体SNSとしては不健康であることに変わりはない。しかし、ユーザーを惹きつけるためにはある程度毒は必要だ。Twitterをダメにしたのは、この毒だ。過剰にROM専を増やし、どんどん双方向コミュニケーションは失われ、Twitterはメディア化した。Twitterは、今やテレビなのだ。

カスタムフィードは「自分で毒を選んで飲める」。もっと言えば「自分で毒を調合できる」。適切にセルフコントロールできれば、毒は薬になるはずだ。

SNS究極の自由、アルゴリズムもユーザーしだいの次世代Twitter「Bluesky」:エンジニアにインタビュー - GIZMODO

現在地

ここまでは、思い出話。備忘録のようなものである。現在地について示す。

  • Nostrは、相変わらずだ。TwitterがAPI制限を強めた日、一時的には人が増えたが、結局元の水準と大差ない結果になってしまった。誰かがコードを書いて、誰かがたまに絵を描いて、あとは単にチャットだ。オフ会もやろうと思えば全員でできてしまう程度の規模である。
  • Blueskyは、最近色んな意味でのボヤ騒ぎが多い。「言わんこっちゃない」という感想だが、それでも尚根拠のない期待感は蔓延している。最近私は逆に楽観視するようになってきていて、きちんと最後までリリースしてくれたら文句はない。ロードマップが示されていないのは不満だが、開発者陣には基本的に信頼を寄せている。
  • Threadsは、一時期脅威を感じていたが口ほどでもなかったようだ(メタの新SNS「Threads」のアクティブユーザー数、ピーク時の4400万人→800万人へと激減か - INTERNET Watch)。しかし、まだActivityPubへの対応というどでかい大砲が待っている。まだ緊張感がある。
  • ActivityPub圏(Mastodon, Misskey)は、ある種最もマシな形で人口を増やしているように思う。やはり数年前からすでに動いているというアドバンテージは大きく、まだTwitterの代わりになるとは思えないがそんなに未来は暗いように見えない。ただサーバー同士の関係がつらいものであるという事情に根本的な解決策がなく、積極的にコミットする気にはなれない。
  • Twitterは、もうTwitterではなくなったらしい。もうSNSとしての機能はサブになっていき、イーロンマスクによるスーパーアプリの実験場になるのだろう。ユーザーだけ掠め取られて別物になっていくのは正直やるせないが、諦めるしかない。未来が全く読めない。
  • T2、SPILL、その他新興SNSについては、それぞれ個性が出ていて遊びで触れる分には非常に面白い、が、これらが覇権を取るとは到底思えない。Twitterがエポックメイキングだったのは「Twitter」を発明したからだ。Twitterを改良した何かを作っても、遅かれ早かれ同じような末路になるだけだ。リソースを企業が独占しても、持続性はない。

以上を踏まえて私がこのSNS覇権ダービーを予想するならば、以下のようにする。

◎ ActivityPub (Mastodon, Misskey, Threads…): ActivityPub連合の一部としてThreadsを解釈すれば、APは勝つだろう。すでに数年の運用実績があり、現状は個人によるサーバーが多いが、企業によるサーバーも増えていけばいずれ景色も変わっていくように思う。

○ Threads一人勝ち: ThreadsによりAPのパワーバランスが崩れ、実質一人勝ちのようになる可能性もある。これを対抗として挙げよう。あまり想像したくない未来だが、完全に牛耳られているよりは希望がある。

▲ Twitter: TwitterがTwitter的なままで存続するとは思っていないが、サービス終了さえしなければあれだけのユーザー数を抱え続けることができる。この状況を過小評価してはいけない。

△ AT Protocol: AT Protocolへの評価は正直かなり厳しい。が、分散型SNSの中では特に期待されているプロダクトだ。資金調達も順調ではあるし、今後の舵取りさえ上手くやれば大化けする可能性はある。ただ、このままでは沈没すると予想している。

× Nostr: Nostrは、正直おまけである。あまりにも未熟すぎてまともなSNSの体を成していない。しかし、開発者の熱量は最も高いと感じており、急激な加速を見せるポテンシャルを含んでいる、と期待を込めて印をつけた。

未来

ここまでが、私の考える現実的な予想である。そしてこれ以降は、私の単なる理想について。

AT Protocolの掲げる理想には、一言一句全てに賛同している。

メールはプロトコル化され、誰でも、何のサービスにも依拠することなくやり取りが可能だ。手間さえ無視すれば、自分でメールサーバーを立てることだってできる。ではSNSでも同じようなものが欲しい、それがAT Protocolだ。Twitterの一件のように、企業によりユーザー数を人質に取られることもない。

The web. Email. RSS feeds. XMPP chats. What all these technologies had in common is they allowed people to freely interact and create content, without a single intermediary. We‘re building the AT Protocol, a new foundation for public conversation and social networking which gives creators independence from platforms, developers the freedom to build, and users a choice in their experience.

Bluesky

ではAPではなぜダメか。APには「おすすめ欄」がない。ATPはおすすめ欄のアルゴリズム選択の自由をユーザーの手に取り戻す。妥協ではなく、現実的な折衷案といえよう。おすすめ欄はSNSにとって欠かせないのだから、できる限り自分の手で健康的なものにしてしまえばよい。

AT Protocol上でいつかやりたいことがある。先述した、議論プラットフォームの建設だ。Twitterは議論の場としては適切だとは思っていないが、つまらない政治的な小競り合いが毎日起こっている。これを少しでも有意義な意見として少しでも多く回収出来たら、もう少し世界は何とかなるのではないか。

実は、すでに議論するためのSNSはいくつも存在するが、しかし私はそれでは不十分だと思っている。Twitterで議論をふっかけて、じゃあ続きはこちらでやりましょう、なんて言って誰がついてくるのか。小競り合いが発生する場と、建設的な議論が発生する場はシームレスに接続されている必要がある。

ATPでは、ユーザーは全てDIDと呼ばれる一貫したIDで管理される。人々は無意識に一つのIDだけで複数のサービスを飛び回ることができる。これは、既存のシングルサインオンとは根本的に違う。データは全てユーザーのコントロール化にあり、API制限を食らうこともなく、恣意的な評価で凍結されることもない。自分のデータは全く意識されることなく全てのサービスで共有され、Twitter的なBlueskyから、議論に適したSNSへのシームレスな移動が可能になる。

  1. 道端のような場所で井戸端会議的に発生した議論が
  2. 力を持ち
  3. 議事堂のような場所へ移行し
  4. 意見としてさらにブラッシュアップされていく

そういう建設的な議論が、インターネット上で発生する未来が来て欲しい。これが私の考える理想の未来だ。